日本臨床スポーツ医学会

令和6年能登半島地震で被災された方々へ

第5号記事 2024.01.15 下肢に障害のある被災者へのアドバイス

 この度の被災に際しまして心からのお見舞いを申し上げます。

 まず、強調したいのは、じっとしていてはいけないということです。昼間は横にならないで下さい。自分で動かせるところは毎日何回でも動かして下さい。障害のある下肢も手で動かし、眠る時は可能な限り下肢を上にあげて下さい。例えば、健常者でもじっとしていると下肢の静脈に血の塊が出来てしまいます。これが血管の中で剥がれて飛ぶと肺の血管を詰め、命の危険にさらされます。場合によっては心臓・肺を飛び越えて脳梗塞や腸管梗塞になってしまいます。また、下肢に麻痺がある場合、褥瘡(じょくそう;床ずれ)をつくってしまいます。慣れた家では褥瘡が出来ないように生活できていると思いますが,避難所などでの慣れないベッドやイスでの生活は驚くほど簡単に褥瘡ができます。早い時は3時間程で出来てしまいます。3時間おきの姿勢変換と1日1回は下肢やおしり、腰の状態を自分や他の人に頼んででも目視確認して下さい。そして、全体を触って、腫れて熱が出ていないかチェックして下さい。褥瘡は皮膚の下から出来ます。もし異常があれば、ためらわずに救援医療スタッフにお声がけ下さい。

 次に、障害のある下肢について注意していただきたいのが、凍傷と熱傷です。気温が低下している時に、傷害した下肢が布団の外に出たり、車いすの金属部分に密着していると凍傷を作ります。普段以上に障害下肢の保護に努めて下さい。また、下肢を温めようとして熱傷を作ります。私は下肢障害患者さんがたき火で足を温めようとして足を突っ込んでしまった事故を診たことがあります。カイロの貼りっぱなしによる低温やけどにも注意して下さい。

 はじめに申し上げましたように、被災地や避難所という過酷な状況でも是非運動に努めてください。健常者は歩けますので、被災地での様々な作業で必然的に動き、運動量が保たれます。しかし、下肢に障害のある方は被災地や避難所という環境では運動量が保てません。十分な食料が確保されている場合は、意識して健常なところを動かして下さい。腕立て伏せ、車いす駆動、懸垂、プッシュアップ、何でもかまいません。また、上肢でできる作業があれば何でも手伝って下さい。健常者の方も障害のある方向けの作業を作って下さい。被災後の大変な状況である事とは存じますが、とにかく活動し、運動して下さい。

 皆様のご健勝と一日も早い復興を祈ります。

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